目次
鋳造金型製作の常識を覆す:誉工業所が「自動割り出し」で実現した劇的な生産性向上
1. 導入:現場を悩ませる「手動」の限界
鋳造金型の製作現場において、技術者を最も悩ませる「宿敵」といえば、加工そのものよりも、むしろその前段階にある「段取り」ではないでしょうか。
特に、複雑な形状を持つ異形ピンや引き抜き部品を製作する際、私たちはこれまで、丸物や四角い素材を何度も付け直し、その都度ダイヤルゲージを当てて芯出しを行い、角度を微調整するという「手動」の工程を当たり前として受け入れてきました。しかし、この職人の感覚に頼ったアナログな調整は、わずかなミスが原点喪失のリスクを招き、結果として膨大な工数とリードタイムの増大を引き起こします。
「もっと精度を上げたい、しかし時間はかけられない」。そんな現場のジレンマを、デジタル技術でいかに突破するか。今回は、愛知県の誉工業所が実践した「自動化へのパラダイムシフト」に迫ります。
2. インパクト1:職人の「手」からNCの「自動制御」へのパラダイムシフト
誉工業所はこの課題に対し、最新鋭の設備導入によるプロセスの刷新を強力に推進しました。その中核を担うのが、ファナック製の大型マシニングセンタ「ロボドリル」と、オプションの自動割り出し装置「DDRI(ダイレクトドライブ・ロータリ・インデクサ)」の組み合わせです。
この導入により、金型製作の現場では、従来の手作業を過去のものとする劇的な転換が起きています。
- 手動(従来): 加工面が変わるたびにワークを一度取り外す「脱着」が発生。手動で角度を振り、再度芯出しを行う必要がありました。この「段取り替え」の度に、人的ミスや累積誤差のリスクがつきまとっていました。
- NC自動(現在): DDRIの導入により、多面加工を一回のチャッキング(ワンチャック)で完結。全ての角度割り出しをプログラムによるNC制御で自動化しました。
大型のロボドリルによる広範な加工領域と、DDRIによる高速・高精度な自動割り出しの相乗効果は、単なる「省力化」に留まりません。物理的な付け替え作業(脱着)を排除したことで、加工精度のバラツキを極限まで抑え込み、熟練の「勘」をデジタルな「再現性」へと昇華させたのです。
3. インパクト2:リードタイムとコストの壁を打ち破る「DDRI」の威力
DDRIの真価は、素材から完成品に至るまでの圧倒的なスピードとコストパフォーマンスに現れます。特に、丸物や四角い鋼材から複雑な異形ピンを削り出す際、工程の集約がもたらすメリットは計り知れません。
誉工業所の坂氏は、その劇的な変化を次のように述べています。
「今までですね、コスト的にもリードタイム的にもかなり時間がかかっていたんですけれども、このDDRIの導入によってですね、より正確にそして短時間に異型ピン、異系のですね、金型部品、引き抜き部品などをですね、制作できるようになりました」
ここで注目すべきは、単なる「時短」以上の価値です。デジタル制御による高精度な加工は、部品の「完全な互換性」を担保します。例えば、数年前に製作したピンが破損した際、全く同じ精度の予備部品を即座に提供できる。この正確さが、結果としてお客様の鋳造ラインのダウンタイムを最小限に抑えるという、製造業における「究極の信頼」に繋がっているのです。
4. インパクト3:一貫生産体制が支える「止まらない」ものづくり
動画のタイトルにもある「お客様の鋳造生産を止めない」というミッション。これを実現しているのが、大型ロボドリル+DDRIという強力な武器を備えた、誉工業所の「社内一貫生産体制」です。
最新設備の能力を最大限に引き出すことで、同社は以下の3つの強みを盤石なものにしています。
- 正確性: 脱着による誤差を排除し、プログラム制御で常に設計図通りの寸法を再現。
- 短納期: 手動の芯出し・角度調整といった「非加工時間」を徹底的にカット。
- 複雑形状への対応力: 異形ピンや特殊な引き抜き部品など、従来は「手がかかる」と敬遠されがちだった形状にも柔軟に対応。
こうした高度な内製化体制があるからこそ、緊急時のトラブルや突発的な部品交換要求に対しても、迷いのない迅速なレスポンスが可能となるのです。
5. 結論:これからの金型製作に求められるもの
誉工業所の事例が教えてくれるのは、伝統的な「職人技」を否定するのではなく、それを最新のデジタル制御といかに融合させるかという重要性です。コスト削減と短納期化という、製造業が永遠に抱える課題に対する答えは、現場の「当たり前」を疑う勇気にあります。
NCによる自動割り出しがもたらしたのは、作業の効率化だけではありません。それは、現場から不確実性を排除し、誇りを持って「お客様の生産を止めない」と言い切れる強固な基盤です。
あなたの現場でも、長年「これが普通だ」と思い込んでいる手動の工程に、劇的な変化をもたらす「DXの種」が隠れていませんか?今こそ、そのプロセスを見直す絶好のタイミングかもしれません。

